お世話になりました

愛すべきものすべてに捧げます

オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督「12か月の未来図」

 

 ※輸入盤です。

 

 「12か月の未来図」はパリの難関、アンリ4世高校の教師だったエリート出身のフランソワが、郊外にある移民ばかりの教育困難校バルバラ中学校で1年間教えることになる、という映画。

 パリと、パリの周りを囲む郊外の間には格差が存在する。

 階層の固定化を防ぐため、フランソワは「パリとパリ郊外の学校における教育格差を解決するには、問題校へベテラン教師を派遣して新米教師を支援すればよい」という教育改革論を持っている。この映画では、フランソワが実際に郊外へ「下り」、その理論を実践することになる。

 映画の抜粋を見ると、カンヌ映画祭パルム・ドールを受賞した2008年の映画「パリ20区、僕たちのクラス」を彷彿させる。

 今回はパリ20区よりさらに郊外のセーヌ・サン・ドニ県の話なのでさらに問題は根深いと言える。

 

 

 子供たちがいろんなクセのあるフランス語をしゃべっていて、字幕なしだと全部聴き取るのは難しい。

 ある男子生徒が勝手に違う席に座っているので注意するという場面。

 先生が「決まった席に戻れ」と言った後、

「Obligé à crier. Je déteste ça en fait.」(怒鳴るのは本当は嫌なんだよ)

と言う。

 それを受けて男子生徒が

「Moi aussi, je déteste ça.」(僕も嫌だね)

と返して、フランソワが

「Pas de commentaire.」(つべこべ言うな)

と言うやり取りが面白い。

 

 このシーンを見るとどうしようもなさそうな感じだが、果たしてバルバラ中学に未来はあるのか。映画を見てのお楽しみだ。

  監督はオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル。出演はドゥニ・ポダリデス、アブドゥライ・ディヤロ。

 

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パリ20区、僕たちのクラス [DVD]

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愛は続いているかぎり無限だ(ヴィニシウス・ジ・モライス)

Eu possa me dizer do amor (que tive):
Que não seja imortal, posto que é chama
Mas que seja infinito enquanto dure.

 

予告された殺人の記録・十二の遍歴の物語 (Obras de Garc〓a M〓rquez (1976-1992))

予告された殺人の記録・十二の遍歴の物語 (Obras de Garc〓a M〓rquez (1976-1992))

 

 

ガルシア・マルケス十二の遍歴の物語』の『電話をかけに来ただけなの』に引用されている詩。

邦訳は「愛は続いているかぎり永遠なのよ」。

しかし原語では「(愛は)不滅ではない。炎のように消えるから。でも続いているかぎりは無限だ」という意味。

仏語訳Je ne voulais que téléphonerでも、L'amour est éternel tant qu'il dure.なので、おそらくマルケスがモライスの詩を少しいじっている。

素晴らしい詩句だと思う。

永遠の愛なんかないに決まっているが、愛し合っている間は2人にとっては永遠、無限を感じさせるものだから、永遠の愛など存在しないなどと安易に否定してはならないのだ。愛の真実を僅か数語で言ってのけるモライスはやはり天才。

ちなみにこのマルケスの短編も天才的。間違って精神病院に幽閉される女の話だが、会社や学校、友達の集まりなどでもバカが多数派を占めたらまともな方が少数派になって、精神病院に幽閉されたこの女のような屈辱的境遇に陥ることだってありうる。

そういう意味では、特殊な状況を書いた小説だが普遍的な状況を書いた小説でもあるのだ。

Tears For Fears「Shout」(ティアーズ・フォー・フィアーズ「シャウト」)和訳

※誤訳は遠慮なくご指摘ください。

 


Tears For Fears - Shout (Official Video)

Tears For Fearsの「Shout」(ティアーズ・フォー・フィアーズ、「シャウト」)。

1985年の作品。

ここで言われている「奴ら(they)」とは、冷戦を続ける政治家だったり、ルールを押しつける親などを指すようです(はっきりとは言われていません)。

 

Shout, shout
Let it all out
These are the things I can do without
Come on I'm talking to you
Come on

In violent times
You shouldn't have to sell your soul
In black and white
They really-really ought to know

Those one-track minds
That took you for a working boy
Kiss them goodbye
You shouldn't have to jump for joy
You shouldn't have to jump for joy

Shout, shout
Let it all out
These are the things I can do without
Come on, I'm talking to you
Come on

They gave you life
And in return you gave them hell
As cold as ice
I hope we live to tell the tale
I hope we live to tell the tale

Shout, shout
Let it all out
These are the things I can do without
Come on, I'm talking to you
Come on

And when you've taken down your guard
If I could change your mind
I'd really love to break your heart
I'd really love to break your heart

Shout, shout
Let it all out
These are the things I can do without
Come on, I'm talking to you
Come on

(They really-really ought to know.)
Shout, shout
Let it all out
(really-really ought to know.)
These are the things I can do without
(They really-really...)
Come on, I'm talking to you
Come on
(They really-really ought to know.)

Shout, shout
Let it all out
(I'd really love to break your heart.)
These are the things I can do without
(I'd really love to break your heart.)
Come on, I'm talking to you
So, come on

Shout, shout
Let it all out
These are the things I can do without
Come on, I'm talking to you
Come on

 

叫べ、叫べ
すべて吐き出せ
俺にはどうでもいいことだけど
お前に言って聞かせたい
やろうぜ

荒れた時代
白黒つけたがる奴らに
魂を売らなくていい
奴らは知るべきなんだ

奴らは一つのことしか頭にない
君たちは労働者としてしか見られてない
奴らにキスして決別しよう
大喜びする必要はない
はしゃいだりしなくていい

叫べ、叫べ
すべて吐き出せ
俺にはどうでもいいことだけど
お前に言って聞かせたい
やろうぜ

奴らは「お前を生んでやった」と言う
そのお返しに奴らを苦しめてやるんだ
氷のように冷たい地獄の苦しみを
みんなで生き延びられるといいね
みんなで生き延びられるといい

叫べ、叫べ
すべて吐き出せ
俺にはどうでもいいことだけど
お前に言って聞かせたい
やろうぜ

ガードが甘くなった時
君たちの心を変えられるといい
苦痛を伴うものだけどね
心を折ってでも変えたいんだ

叫べ、叫べ
すべて吐き出せ
俺にはどうでもいいことだけど
お前に言って聞かせたい
やろうぜ

シャウト

シャウト

 

 

 

ケベックのフランス語で朝食・昼食・夕食は?

フランスだと当然、

朝食=le petit déjeuner

昼食=le déjeuner

夕食=dîner

ですよね。

 

でもケベックではpetit déjeunerが消えて、1つずつ前にズレます。

朝食=déjeuner

昼食=dîner

夕食=souper

 

deuxième étageが「2階」ではなく「3階」を指すのと同じようなもので、知らないと1フロア間違えてしまいますね。

 

※このコーナーでは、「グザヴィエ・ドランの映画を字幕なしで見る」を最終目標にケベックのフランス語を学んでいきます。

 

 

レオス・カラックス監督「汚れた血」のラスト

 

汚れた血 [DVD]

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 レオス・カラックス監督「汚れた血」のラストでアレックスがこう呟く。

Un jour, ça sera comme quand on a déjà vécu.

日本語字幕では「いつか十分に生きたと言える日が…」となっていたが、これはヴェルレーヌのKaléidoscopeという詩の引用だ。

(ちなみにタイトルのMauvais Sangはランボーの引用)

 

Kaléidoscopeの最初の2連を引用する。

 

Dans une rue, au coeur d'une ville de rêve
Ce sera comme quand on a déjà vécu :
Un instant à la fois très vague et très aigu...
Ô ce soleil parmi la brume qui se lève !

 

Ô ce cri sur la mer, cette voix dans les bois !
Ce sera comme quand on ignore des causes ;
Un lent réveil après bien des métempsycoses :
Les choses seront plus les mêmes qu'autrefois

「ある通り、夢のような街の真ん中で/それはもう既に生きたことがある時のようなものだろう」

この論文によるとヴェルレーヌブリュッセルで投獄され、牢屋を出た後の都市風景を描いているそうで、既に生きたことがあるような感覚(déjà vécu)というのは7行目のmétempsycoses(輪廻)という言葉ともつながっている。

 

レオス・カラックスは他人の作品からも自分の作品からも引用をちりばめる人で、どのシーンも「これは何かの引用かも」と思わせるところがある(フランス語参考記事)。

という意味ではどのシーンもアレックスが言う、comme on a déjà vécuの感じがするのだ。

 

 

Quentin Dupieux監督「勤務につけ!(Au Poste !)」

ツイッターに「ふつごぽん」さん@futsugoponという方がいらっしゃいまして、フランス語の勉強に非常に役立っている。

その口調が非常に印象深い女性言葉で、ついついマネしたくなったのが以下のツイートです。

 

ネタバレ(?)になるから詳しく書けないが、寺山修司の「田園に死す」の新宿東口のシーンを思い出した。

YouTubeで探したけど該当シーンはなかった。

Ain't Nobody Here But Us Chickens(細野晴臣)

 

Vu Jà Dé (ヴジャデ)

Vu Jà Dé (ヴジャデ)

 

 

「Vu Jà Dé」Disc1の2曲目に「Ain't Nobody Here But Us Chickens」という面白い曲が入っている。

この曲のみ、細野さんの「意訳」がついていて、いい風情なので一部載せたい。

 

ある夜、農夫のブラウンは空気を吸いに外に出て、

用心深く鶏小屋を閉じたとさ

「鶏小屋の中に何かいる 、誰?」

ま、これは人から聞いた話なんだがね・・

 

ニワトリ以外誰もいなかったのさ

自分たち以外誰もいないんだ

だから落ち着いて、騒ぐのをやめようってね

ここには自分たちしかいないんだ

で、思わず地面を蹴ったらひどい埃さ

ニワトリを寝かさなきゃお手上げなのに

ホラホラ、逃げ回っちゃダメよ

 

 細野さんは「ジャンプ・スタイルのカヴァーが多い中、唯一ブギウギ・スタイルで歌っているのがマルチ・タレントのフィル・ハリスだ。1947年に録音したものだが、ブギの中でも秀逸な出来で、これをカヴァーするのが長年の夢だった」と書いている。

そのフィル・ハリスの曲がこれ。


Phil Harris - Ain't Nobody Here But Us Chickens 1947

 

歌詞はこちら。

One night farmer Brown was takin' the air
Locked up the barnyard with the greatest of care
Down in the hen house something stirred
When he shouted, "who's there?"

" who's there?"

I'm telling the truth

This is what he heard

You can believe or not

There ain't nobody here but us chickens
There ain't nobody here at all
So quiet yourself and stop that fuss
There ain't nobody here but us
We chickens tryin' to sleep and you bust in
And hobble, hobble, hobble, hobble, with your chin

There ain't nobody here but us chickens
There ain't nobody here at all
You're stompin' around and shakin' the ground
You're kicking up an awful dust
We chickens tryin' to sleep and you bust in
And hobble, hobble, hobble, hobble, it's a sin

Tomorrow is a busy day
We got things to do, we got eggs to lay
Worms to catch, ground to scratch
It takes a lot of sittin', gettin' chicks to hatch
There ain't nobody here but us chickens
There ain't nobody here at all
So quiet yourself and stop that fuss
There ain't nobody here but us
And kindly point that gun the other way
And hobble, hobble, hobble off and hit the hay

Tomorrow is a busy day
We got things to do, we got eggs to lay
Worms to catch and ground to scratch
It takes a lot of settin', gettin' chicks to hatch
There ain't nobody here but us chickens
There ain't nobody here at all
So quiet yourself and stop that fuss
There ain't nobody here but us
And kindly point that gun the other way
And hobble, hobble, hobble off and hit the hay.

 

フィル・ハリス版を聴いていると、情景が見えてきて面白い。

上の赤字の箇所が細野版にない歌詞だが、ここがフィル・ハリス版のキモだと思われる。

最初に農夫のブラウンが鶏小屋を見に行って、「誰だ? そこにいるのは?」と叫ぶまでは農夫視点。

このあと、フィル・ハリス版では歌手が「僕(話者=歌手)の話は本当さ。ブラウンはこんな声を聞いたんだ。君たち(聴衆)は信じられないかもしれないけどね」とナレーションを噛ませる。

そしてそこからはすべてニワトリ視点。

ニワトリたちが「俺たちニワトリは忙しいんだ。俺たちに銃を向けるな。さっさと寝ろ(hit the hay)」と農夫のブラウンに文句を言っているのだ。

(「動物農場」みたいな世界だがこの歌のほうが先だ)

ニワトリの歌だが、刑務所か捕虜収容所で看守に盾突いている歌にも聞こえる。

いろんな状況に置き換えられるのがこの歌の面白いところだ。