お世話になりました

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ベルナール・ジロドー「ヘカテ」「焼け石に水」

ベルナール・ジロドー主演「ヘカテ」(ダニエル・シュミット監督)。フランソワ・オゾン監督「焼け石に水」では翻弄する側だがこちらはファム・ファタールに翻弄される側。相手の髪をつかむ手とか殺す妄想とか、オゾン監督は「ヘカテ」に着想したのか? 日本語以外シュミット監督情報が少なくて裏が取れない。

日本以外では日本人が思うほど有名ではないという人は音楽界でも映画界でもいるが、ダニエル・シュミット監督もその1人だろう。蓮實重彦と蓮實信者のおかげか。

申し訳ないが映画版「ヘカテ」だとなぜ主人公が女に翻弄されるのか、いまいち入り込めない。映像は「シェルタリング・スカイ」のヴィットリオ・ストラーロと肩を並べるくらいきれいだが。

たぶん原作はもっと面白いだろう、ということは伝わった。

『マルクス・エンゲルス』(ラウル・ペック監督、2017年)①枯れ枝を拾って悪い?

マルクス・エンゲルス』(原題は『若き日のカール・マルクス Le Jeune Karl Marx』)の冒頭(1843年4月 ケルン)に生木(なまき)と枯れ枝の話が出てくる。

これがよく分からなかったので調べたところ、実に興味深い話だった。

マルクスが1842-43年にライン新聞の編集者として働いている時、ライン州で木材窃盗取締法に関する討論が行われた。枯れ枝を拾う民衆を取り締まるべきかどうか。マルクスは取り締まりを批判する。

いわく、ヘビの抜け殻がヘビと有機的関連を持っていないのと同様、枯れ枝は木との有機的関連はない。

ところで豊かな樹木と枯れ木の関係は富める者と貧しい者との関係と同じだ。枯れ木(もしくは落穂)は貧民側の物、共有財産であり、それらを拾うのは貧民階級の慣習的権利だと。

参考論文

 

映画の英語台本がネットにあったので、引用したい。

To gather green wood, one must rip it violently from the living tree.
Yet gathering dead wood removes nothing from the property.
Only what is already separated is removed from the property.
Despite this essential difference, you call both acts theft and punish them as such.

生木を手に入れるには
枝を切らなければならない

だが枯れ枝を集めるのは
誰の痛手も負わない

木から落ちた物なのだから
誰の財産でもないのだ

生木と枯れ枝は
全く別物だというのに

どちらも罰する法律が
作られようとしている

 

Montesquieu names two kinds of corruption.
One when the people do not observe the laws.
The other when the laws corrupt them.

腐敗には2種類あると
モンテスキューは説いた

1つは法を守らぬ民衆の腐敗

もう1つは
民衆を堕落させる法の腐敗

 

You have erased the difference between theft and gathering.
But you are wrong to believe it is in your interest.
The people see the punishment, but not the crime.
And, as they do not see a crime...
when they are punished, you should fear them, for they will take revenge.

州議員たちは枯れ枝集めを
窃盗とみなしている

だが その考えは
何の利益も生むことはない

民衆は罰を受けても
それを罪とみなすことはない

覚悟するがいい

罰せられた民衆たちが
恨みを晴らす時を

 

つまりマルクスは新法を作って枯れ枝を拾う民衆を罰しようとする立法者に対して「いつかしっぺ返しを食らうぞ」と忠告している。

 

私のような無知の者からするとマルクスの本は経典のような印象だったが、このように現実的な問題、時事問題からマルクスがさまざまな文章を書いていったというのが新鮮に思えた。

 

仏国歌

【訳例1】

行こう 祖国の子らよ

栄光の日が来た

我らに向かい 暴君の

血塗られた旗が掲げられた

血塗られた旗が掲げられた

聞こえるか 戦場の

残忍な敵兵のうなり声が

やつらは我らの腕の中に来て

我らの子と妻の喉をかき切る

武器を取れ 市民らよ

隊列を組め

進もう 進もう

汚れた血

我らの畑を満たすまで

(「テディ」より)

雑誌「ふらんす」対訳シナリオまとめ(2016年8月号~2021年11月号)

白水社の雑誌「ふらんす」に載っている対訳シナリオで取り上げられた映画を一覧にしました。お役に立てれば幸いです。

2016年8月号
『太陽のめざめ』

2016年9月号
『アンナとアントワーヌ愛の前奏曲

2016年10月号
アスファルト

2016年11月号
ダゲレオタイプの女』

2016年12月号
『92歳のパリジェンヌ』

2017年1月号
『ショコラ 君がいて、僕がいる』

2017年2月号
『パリ、恋人たちの影』

2017年3月号
たかが世界の終わり

2017年4月号
『未来よこんにちは』

 

『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』

2017年5月号
『午後8時の訪問者』

2017年6月号
『アムール、愛の法廷』

2017年7月号
『ロスト・イン・パリ』

2017年8月号
『エルELLE』

2017年9月号
セザンヌと過ごした時間

2017年10月号
『汚れたダイヤモンド』

2017年11月号
婚約者の友人

2017年12月号
ルージュの手紙

2018年1月号
ライオンは今夜死ぬ

2018年2月号
ぼくの名前はズッキーニ

2018年3月号
『ハッピーエンド』

2018年4月号
BPMビート・パー・ミニット』

2018年5月号
ルイ14世の死

2018年6月号
告白小説、その結末

2018年7月号
『C’est la vie ! セラヴィ!

2018年8月号
グッバイ・ゴダール!

2018年9月号
顔たち、ところどころ

2018年10月号
『アラン・デュカス宮廷のレストラン』

2018年11月号
『おかえり、ブルゴーニュへ』

2018年12月号
バルバラ セーヌの黒いバラ』

2019年1月号
『マチルド、翼を広げ』

2019年2月号
『あなたはまだ帰ってこない』

2019年3月号
『天国でまた会おう』

2019年4月号
『12か月の未来図』

2019年5月号
『パパは奮闘中!』

2019年6月号
『田園の守り人たち』

2019年7月号
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』

2019年8月号
『ディリリとパリの時間旅行』

2019年9月号
『今さら言えない小さな秘密』

2019年10月号
『英雄は嘘がお好き』
『真実』


2019年11月号
『人生、ただいま修行中』

2019年12月号
シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』

2020年1月号
『パリの恋人たち』

2020年2月号
『男と女 人生最良の日々』

2020年3月号
レ・ミゼラブル

2020年4月号
『最高の花婿アンコール』

2020年5月号
『アンティークの祝祭』

2020年6月号
『今宵、212号室で』

2020年7月号
『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』

2020年8月号
『ファヒム パリが見た奇跡』

2020年9月号
スペシャルズ!〜政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話〜』

2020年10月号
『マティアス&マキシム』

2020年11月号
家なき子 希望の歌声』

2020年12月号
『燃ゆる女の肖像』

2021年1月号
『パリのどこかで、あなたと』

2021年2月号
『パリの調香師 しあわせの香りを探して』

2021年3月号
『MISS ミス・フランスになりたい!』

2021年4月号
『約束の宇宙(そら)』

2021年5月号
『5月の花嫁学校』

2021年6月号
ベル・エポックでもう一度』

2021年7月号
『シャイニー・シュリンプス! 愉快で愛しい仲間たち』

2021年8月号
『Summer of 85』

2021年9月号
スザンヌ、16歳』

2021年10月号
『カラミティ』

2021年11月号
恐るべき子供たち 4Kレストア版』

『田舎司祭の日記 4Kデジタル・リマスター版』の予習に

現在4Kデジタル・リマスター版が公開中のロベール・ブレッソン監督『田舎司祭の日記』を見に行く予定。

ブレッソンも、原作のベルナノスも手ごわい相手なのでちゃんと予習していこうと思う。

まず、アンドレ・バザン『映画とは何か(上)』 (岩波文庫)に収められている「『田舎司祭の日記』と…」と、『彼自身によるロベール・ブレッソン: インタビュー 1943–1983』を読み、ネットサーフィンに入ると、野崎歓氏の「文芸映画の彼方へ(映画を信じた男 アンドレ・バザン論IV)」という論文が詳しかった。上の2冊から入るより、こちらの論考から入る方が入門編としては断然いい。

公開から少し経過して、モーリアックなどの絶賛などの世間的反応を見てからバザンが上記の論考を出したとさらりと書いてあるが、こういうところをちゃんと調べて書いているのがすばらしい。

シネマカリテの上映もあと1週間で終わりそうなので早く見に行きたい。

 

 

この世はすべて舞台(「お気に召すまま」)

(「お気に召すまま」第2幕第7場、ジェイクィズの言葉より)

この世はすべて舞台。

男も女もみな役者に過ぎぬ。

退場があって、登場があって、

一人が自分の出番にいろいろな役を演じる。

その幕は七つの時代から成っている。最初は赤ちゃん。

乳母に抱かれて、泣いたり、もどしたり。

それから泣き虫児童。かばんをさげて、

輝く朝の顔をして、かたつむりのように

しぶしぶ学校に通う。それから恋人、

熱く燃える溜め息ついて、嘆きのバラードを

愛しい女の眉に捧げる。それから兵士。

妙な啖呵を並べ立て、豹のような鬚生やし、

名誉を求めて、喧嘩っ早く、

はかなき名声求めるあまり、

大砲に向かって突撃する。それから判事。

鶏肉つまった太鼓腹。ギロリと睨んで、

髭ピンとさせ、ちょいと賢い格言と、

月並みな判例並べ立てりゃ、それだけで

役が務まる。六つ目の時代は、

スリッパを履いた痩せた老いぼれ。

鼻には眼鏡、腰には巾着、

大事にとっておいた若い頃のタイツは、

しなびた脚にぶかぶかで、男らしかった大声も、

甲高い子供の声に逆戻り、ヒューヒューと

笛のように鳴るばかり。そして最後の大詰め、

この波乱に富んだ不思議な歴史の締めくくりは、

二度目の幼児期、完全なる忘却、

歯もなく、目もなく、味もなく、何もなし。

河合祥一郎訳)

 

(from As You Like It, Act II, Scene VII, spoken by Jaques)

All the world’s a stage,
And all the men and women merely players;
They have their exits and their entrances;
And one man in his time plays many parts,
His acts being seven ages. At first the infant,
Mewling and puking in the nurse’s arms;
And then the whining school-boy, with his satchel
And shining morning face, creeping like snail
Unwillingly to school. And then the lover,
Sighing like furnace, with a woeful ballad
Made to his mistress’ eyebrow. Then a soldier,
Full of strange oaths, and bearded like the pard,
Jealous in honour, sudden and quick in quarrel,
Seeking the bubble reputation
Even in the cannon’s mouth. And then the justice,
In fair round belly with good capon lin’d,
With eyes severe and beard of formal cut,
Full of wise saws and modern instances;
And so he plays his part. The sixth age shifts
Into the lean and slipper’d pantaloon,
With spectacles on nose and pouch on side;
His youthful hose, well sav’d, a world too wide
For his shrunk shank; and his big manly voice,
Turning again toward childish treble, pipes
And whistles in his sound. Last scene of all,
That ends this strange eventful history,
Is second childishness and mere oblivion;
Sans teeth, sans eyes, sans taste, sans everything.

 

 

新訳 お気に召すまま (角川文庫)

新訳 お気に召すまま (角川文庫)