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アルメンドロス@トリュフォー

 

トリュフォー 最後のインタビュー

トリュフォー 最後のインタビュー

 

 

蓮實 私の大学の学生のなかに、すでに四年前にトリュフォーにおけるロウソクをめぐる論文(松浦寿輝「燃えあがる文字、書かれた炎」、同人誌「闇祭」第一号所載)を書いた者がおります。

(中略)

トリュフォー
 『野性の少年』にもロウソクのシーンはあったし……時代物にはロウソクが出てくるからね。わたしの映画にロウソクが出てくるようになったのは、キャメラマンネストール・アルメンドロスの影響によるところが非常に大きいと思います。ロウソクの光だけで顔を撮るといったむずかしい撮影はすべてアルメンドロスの実験です。

山田
 ロウソクの光だけで撮影するといえば、スタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』(一九七五)が評判になりましたね。

トリュフォー
 フフフ……アルメンドロスが言うには、あれは『野性の少年』の影響だと。

山田
 ネストール・アルメンドロスはいつもその種の実験をやるキャメラマンなのですか。

トリュフォー
 そもそもドキュメンタリーをやっていた人なので、人工的な照明などあまり好まず、原則としてノー・ライトで撮影しようとするのです。『野性の少年』では、四方が真っ白な壁の部屋で、床に鏡を沢山置いて、外から射し込んでくる光を反射させ、それだけで室内撮影をしたりしました。ロウソクの光だけで撮ろうと言い出したのもアルメンドロスで、とはいうものの、さすがに心配で、フィルムを現像所に送ってから、うつっているかどうか確かめるまで眠れなかったと言っていました(笑)。


(一九七九年一二月六日、東京にて)