占領下のフランス①豚肉50キロを持って縦断(でも邦題は『パリ横断』)
『パリ横断』(1956年フランス、クロード・オータン=ララ監督)は占領下のパリが舞台。
失業中のマルタン(ブールヴィル)が闇市の仕事を引き受け、街で出会ったグランジル(ジャン・ギャバン)という男と豚肉を運ぶ話。この2人の珍道中が面白い。
グーグルマップによると、オーステルリッツ駅にほど近いポリヴォー通り45番地(5区)からモンマルトルのルピック通り(18区)までは約7キロ、徒歩で1時間半ほどかかる距離。これを1人50キロの豚肉を持って運ぶのだから結構な労働だ。
(地図を見れば一目瞭然だがパリを北上するルートなので、厳密に言うと『パリ横断』という邦題はおかしい。『パリ縦断』だ)
「闇市がどんなものか知りたい」という興味本位だけで仲間になった裕福な画家グランジルと、生活が懸かっているマルタンの漫才のような掛け合い。ルイ・ド・フュネスも出番は少ないが強烈な印象。ナチスの圧政にあえぐ庶民の悲劇でありながら笑いどころ満載の喜劇でもある。
クロード・オータン=ララと言えばフランソワ・トリュフォーに酷評された旧世代の監督だが、スタジオ中心の撮影がこの作品では功を奏している。
灯火管制下の薄暗いパリの夜が独特の雰囲気を醸し出している。光と影の使い方が秀逸。特に終盤のあのシーンはびっくりした。暗闇に包まれたパリはブラッサイの『夜のパリ』を想起させる、無機質な美しさだ。
音も面白い。静かなパリに足音がコツコツと響く。これも人工的で無機質な感じでいい。