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「終電車」@トリュフォー最後のインタビュー

 ※蓮實重彦山田宏一トリュフォー 最後のインタビュー」より。

【反ユダヤの劇評家ダクシア】

ドパルデューの役には、ジャン・マレーの自伝から来ている部分があります。たとえば彼がドイツ軍に協力する劇評家に殴りかかる場面がありますが、あれなどはまさにそっくりジャン・マレーの回想から来ているものです。事実、映画のなかで描いたように、雨が降っていた。この殴られる劇評家、ダクシアは、戦時中の親独派の新聞「ジュ・スュイ・パルトゥー」で演劇評を書いていたアラン・ロブローという有名な劇評家をモデルにしています。
(略)
占領時代、ナチを信奉するフランス人の多くが男性的な力強さを讃美して、ドイツは勝ち誇るオスであり、フランスは敗北したメスであるとみなして、ユダヤ人と同性愛者を同じ一つの憎悪の対象にくくっていた。アラン・ロブローを筆頭に当時のファシストの劇評家は一様にアンリ・バタイユの「ユダヤがかった」演劇やジャン・コクトーの「女々しい」芝居を口汚く罵倒したのです。そうした二重の人種偏見による執念深く、狂信的で性的差別にもかかわる側面はジャン=ポール・サルトルの「ユダヤ人」に見事に分析されているとおりです。


【ドイツ軍占領下のフランス人の生活】

当時の人気作家はジャン・アヌイだったと思います。役者ではシャルル・デュラン、それにピエール・フレネー。サルトルカミュの戯曲が話題になったのは戦時中から戦後にかけてでしょう。ジェラール・フィリップはまだスターではなかった。両親はサルトルカミュではなく、ふつうのブルジョワ劇を観ていたようです。それにクローデル。こうした直接的な記憶のほかに、アンリ・アムルーの「ドイツ軍占領下のフランス人の生活」という本を何度も読み、重要な部分には赤線まで引いていた。これは、サーカス、芝居、映画、ミュージック・ホール、シャンソン等々のいくつかの章を持った二冊本で、資料としては完璧なものでした。奇妙なことにこの著者は右翼系の人ですが、多くのドキュメントが含まれていて大変有意義で正確な本でした。