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英語とフランス語がもっとできたらいいのにね

占領下のフランス②ナチスを焼き尽くせ(『イングロリアス・バスターズ』)

 

  ナチス占領下のフランスを舞台にしたハチャメチャな復讐ドラマ。ナチスに復讐する連合軍の秘密部隊「イングロリアス・バスターズ」(ブラッド・ピットイーライ・ロス他)の活躍がメインのプロットとしてあるが、今回取り上げるのは、ナチスに家族を皆殺しされたユダヤ人女性ショシャナ(メラニー・ロラン)の復讐劇。


 何とか生き延びたショシャナは農村からパリに潜伏し、映画館で働いている。そこに、ナチスの首脳陣が集まってドイツ軍のプロパガンダ映画『国民の誇り』をプレミア上映する、という話が舞い込む。復讐を狙う身としては願ってもないチャンス。ショシャナは『国民の誇り』のフィルムに細工を施し、ナチスを待ち受ける…。

 

 ここからネタバレ注意。
 『国民の誇り』は連合軍250人を狙撃したドイツ兵の活躍を映画化したものだが、ショシャナはその終盤を勝手に編集し直し、いきなり自分のどアップのショットを挿入する。そして、どアップのショシャナはナチスの首脳陣たちに、「お前たちは全員死ぬ。最後にこのユダヤ人の顔をよく見るがいい!」と叫び、高笑いする。映画を国民の戦意発揚の道具に使ってきたナチスの首脳陣たちの「人生最期の映画」が、奇しくもユダヤ人からの死刑宣告になってしまったというわけだ。
 逃げ惑うナチス。会場に響き渡るショシャナの笑い声。映写機から投影された映像が、館内を包んだ白煙に映り、笑い続けるショシャナの顔がモコモコと変形。不気味なことこの上なし。

 

 ショシャナにとって、プレミア上映は一世一代の大勝負。いよいよナチスとの決戦に挑むというとき、ショシャナは入念に化粧をする。
 いにしえの時代から人類は戦闘に挑むとき、不安を制御し呪術的な力を得るために化粧を施してきた。ショシャナが赤いチークを両方の頬に引いたとき、これから狩りに出ようとする未開の民族のような雰囲気が一瞬漂う。

 

 ここで驚いたのはBGMの使い方。いよいよクライマックス、という場面でいきなり1980年代前半の「レッツ・ダンス」のころのデヴィッド・ボウイの曲「キャット・ピープル」がかかるのだ(使われているのはジョルジオ・モロダーとの共演版)。時代考証もこれまでの音楽との整合性もムチャクチャ。かなり唐突なのでびっくりしたが、よくよく後で調べると、「キャット・ピープル」は、

 

And I've been putting out fire
With gasoline
(おれは愛の炎を消そうとしている
 ガソリンで)


という歌詞で、恋愛ドラマも含んだショシャナの心境とちゃんとつながり合っていたことが分かった。奇才タランティーノが奇才である所以だ。

 

 『イングロリアス・バスターズ』は日本国内ではタラちゃんのハチャメチャ映画みたいに宣伝されていたが、デヴィッド・ボウイしかり、いろんな部分でいろんな映画やいろんな史実とつながっていて味わい深い映画になっている。
 東浩紀的にいうと『イングロリアス・バスターズ』はいろんな(広義の)オタクたちがいろんな「データベース的消費」を楽しめる屈指の映画にできあがっていたのだった。