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長谷川四郎「阿久正の話」

長谷川四郎 (ちくま日本文学全集)

長谷川四郎 (ちくま日本文学全集)

 

 

 1955年の阿久正は原爆と水爆を恐れる小市民だった。
第五福竜丸事件は1954年)
 2011年の阿久正はフクシマの放射能を恐れて、マスクをして通勤するに違いない。
 関西や九州へ移住するほど暮らしの余裕はないが、神奈川か山梨に引っ越して、少しでも被曝を逃れようとするかもしれない。


 …村上春樹の『若い読者のための短編小説案内』の最終章で、語学堪能だった異色の小説家という紹介がされてあったので、興味を持って読んだ。
 普通の市民の普通の生活を描いているようだが、核時代の恐怖を描いているようにも見える。でも、はっきりとしたことは何も明記されていない。
 重要なことをあえて書かず、抽象度を上げる(そして読者の想像の幅を増やす)、というスタンスは村上春樹にも通じる。

 そんな不思議な作品。