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悪魔が夜来る(Les Visiteurs du soir)

悪魔が夜来る [DVD]

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 マルセル・カルネ監督とジャック・プレヴェール個人的には「天井桟敷の人々」「陽は昇る」「霧の波止場」のほうが好きだが、この1942年の映画も味わい深い。

悪魔の使いであるジルがドミニクと共に国を荒らしに来るのだが、国の娘と恋に落ちる。そこに悪魔が登場、ジルと娘の仲を引き裂こうとする物語。

ジルは悪魔の使いなのに優しいところがある。冒頭で、熊を殺された熊使いに、熊を蘇らせてあげるシーンが一例だ。

 

Dominique : À quoi bon Gilles ?...

(余計なマネを)
Gilles : Ça m'amuse tout de même de faire le bien, de temps en temps...

(たまには善行もいいさ)
Dominique : À quoi bon Gilles ?...

(無駄だわ)

 

(和訳は字幕より)

アルレッティ演じるドミニクの立場は最後まで微妙なのだが、ジルは明らかに善側の男である。

 

善の側に立つジルに対し、悪魔の仕打ちは容赦ない。

この悪魔はヒトラーではないか、ナチスではないか、という説もあるようだが(昔話に現代の皮肉を託すのは作り手たちの常套手段だ)、カルネ=プレヴェールのコンビは「天井桟敷の人々」でも「霧の波止場」でも恋を引き裂く男を繰り返し登場させている。だから、この三角関係の構図はプレヴェールのオブセッションなのかもしれない。

 

デュラス「苦悩」、そして「あなたはまだ帰ってこない」

 

苦悩

苦悩

 

クニー:この映画でも、例えば « il nʼest pas plus raisonnable de penser quʼil ne reviendra pas que de penser lʼinverse » と、長いセリフがある。

ヨシ:「彼が戻らないと考えることと、その逆を考えること、そのどちらかにより多くの道理があるわけではない」。つまり「戻ってこないか、戻ってくるか、それはわからへんやないか」ってニュアンスかな。

クニー:それをワンカットの中に収めるためには、ごくごく短くするしかない。字幕はずばり「戻ってこない理由はない」だった。

(出典: https://webfrance.hakusuisha.co.jp/posts/1196

 

長谷川四郎「阿久正の話」

長谷川四郎 (ちくま日本文学全集)

長谷川四郎 (ちくま日本文学全集)

 

 

 1955年の阿久正は原爆と水爆を恐れる小市民だった。
第五福竜丸事件は1954年)
 2011年の阿久正はフクシマの放射能を恐れて、マスクをして通勤するに違いない。
 関西や九州へ移住するほど暮らしの余裕はないが、神奈川か山梨に引っ越して、少しでも被曝を逃れようとするかもしれない。


 …村上春樹の『若い読者のための短編小説案内』の最終章で、語学堪能だった異色の小説家という紹介がされてあったので、興味を持って読んだ。
 普通の市民の普通の生活を描いているようだが、核時代の恐怖を描いているようにも見える。でも、はっきりとしたことは何も明記されていない。
 重要なことをあえて書かず、抽象度を上げる(そして読者の想像の幅を増やす)、というスタンスは村上春樹にも通じる。

 そんな不思議な作品。

ジャック・ドゥミ「天使の入江」

天使の入江 ジャック・ドゥミ DVD HDマスター

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 ギャンブルを題材にした映画は少なくないが、この映画はジャンヌ・モロー(当時35歳)がルーレットにハマッたバツイチ女性を好演。ニースやモンテカルロといった南仏を舞台にしていて、ミシェル・ルグランの音楽が古き良きフランスの独特のムードを醸し出している佳作だ。


 ジャンヌ・モロー演じるジャッキーのギャンブル依存度が半端ない。「死刑台のエレベーター」といい、「突然炎のごとく」といい、ジャンヌ・モローはすごい。当時、こんな演技ができる女優は他にいただろうか?


 ジャッキーの名言を挙げたい。

(1)
賭けてるときの喜びは、他じゃ決して得られないものよ。
(La joie que j’éprouve au jeu n’est comparable à aucune joie.)


(2)
賭けの魅力は、贅沢もどん底もいっぺんに味わえること。数字や偶然の神秘も好き。神様が数字を支配してるんじゃないかって、よく考えるのよ。
(Ce que j’aime justement dans le jeu, c’est cette existence idiote faite de luxe et de pauvreté et aussi de mystère des chiffres… le hasard. Je me suis souvent demandé par exemple si Dieu régnait sur les chiffres.)


 冒頭で「ギャンブルは麻薬とは違う」というセリフが出てくるが、ジャッキーは完治不可能な依存症といっていい。
 だが、「天使の入江」は意外な結末を迎えるが、それを観客に許容させるのは他でもない、ミシェル・ルグランの幸福な音楽と、ニースの美しい海岸のおかげだろう。

  

 さて、「天使の入江」は2013年春にデジタルリマスター版が出来た。
 モナコで開かれたプレミア上映には妻のアニェス・ヴァルダも参加している。
 日本でも見られるようになってうれしい。



オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督「12か月の未来図」

 

 ※輸入盤です。

 

 「12か月の未来図」はパリの難関、アンリ4世高校の教師だったエリート出身のフランソワが、郊外にある移民ばかりの教育困難校バルバラ中学校で1年間教えることになる、という映画。

 パリと、パリの周りを囲む郊外の間には格差が存在する。

 階層の固定化を防ぐため、フランソワは「パリとパリ郊外の学校における教育格差を解決するには、問題校へベテラン教師を派遣して新米教師を支援すればよい」という教育改革論を持っている。この映画では、フランソワが実際に郊外へ「下り」、その理論を実践することになる。

 映画の抜粋を見ると、カンヌ映画祭パルム・ドールを受賞した2008年の映画「パリ20区、僕たちのクラス」を彷彿させる。

 今回はパリ20区よりさらに郊外のセーヌ・サン・ドニ県の話なのでさらに問題は根深いと言える。

 

 

 子供たちがいろんなクセのあるフランス語をしゃべっていて、字幕なしだと全部聴き取るのは難しい。

 ある男子生徒が勝手に違う席に座っているので注意するという場面。

 先生が「決まった席に戻れ」と言った後、

「Obligé à crier. Je déteste ça en fait.」(怒鳴るのは本当は嫌なんだよ)

と言う。

 それを受けて男子生徒が

「Moi aussi, je déteste ça.」(僕も嫌だね)

と返して、フランソワが

「Pas de commentaire.」(つべこべ言うな)

と言うやり取りが面白い。

 

 このシーンを見るとどうしようもなさそうな感じだが、果たしてバルバラ中学に未来はあるのか。映画を見てのお楽しみだ。

  監督はオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル。出演はドゥニ・ポダリデス、アブドゥライ・ディヤロ。

 

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パリ20区、僕たちのクラス [DVD]

パリ20区、僕たちのクラス [DVD]

 

 

愛は続いているかぎり無限だ(ヴィニシウス・ジ・モライス)

Eu possa me dizer do amor (que tive):
Que não seja imortal, posto que é chama
Mas que seja infinito enquanto dure.

 

予告された殺人の記録・十二の遍歴の物語 (Obras de Garc〓a M〓rquez (1976-1992))

予告された殺人の記録・十二の遍歴の物語 (Obras de Garc〓a M〓rquez (1976-1992))

 

 

ガルシア・マルケス十二の遍歴の物語』の『電話をかけに来ただけなの』に引用されている詩。

邦訳は「愛は続いているかぎり永遠なのよ」。

しかし原語では「(愛は)不滅ではない。炎のように消えるから。でも続いているかぎりは無限だ」という意味。

仏語訳Je ne voulais que téléphonerでも、L'amour est éternel tant qu'il dure.なので、おそらくマルケスがモライスの詩を少しいじっている。

素晴らしい詩句だと思う。

永遠の愛なんかないに決まっているが、愛し合っている間は2人にとっては永遠、無限を感じさせるものだから、永遠の愛など存在しないなどと安易に否定してはならないのだ。愛の真実を僅か数語で言ってのけるモライスはやはり天才。

ちなみにこのマルケスの短編も天才的。間違って精神病院に幽閉される女の話だが、会社や学校、友達の集まりなどでもバカが多数派を占めたらまともな方が少数派になって、精神病院に幽閉されたこの女のような屈辱的境遇に陥ることだってありうる。

そういう意味では、特殊な状況を書いた小説だが普遍的な状況を書いた小説でもあるのだ。

Tears For Fears「Shout」(ティアーズ・フォー・フィアーズ「シャウト」)和訳

※誤訳は遠慮なくご指摘ください。

 


Tears For Fears - Shout (Official Video)

Tears For Fearsの「Shout」(ティアーズ・フォー・フィアーズ、「シャウト」)。

1985年の作品。

ここで言われている「奴ら(they)」とは、冷戦を続ける政治家だったり、ルールを押しつける親などを指すようです(はっきりとは言われていません)。

 

Shout, shout
Let it all out
These are the things I can do without
Come on I'm talking to you
Come on

In violent times
You shouldn't have to sell your soul
In black and white
They really-really ought to know

Those one-track minds
That took you for a working boy
Kiss them goodbye
You shouldn't have to jump for joy
You shouldn't have to jump for joy

Shout, shout
Let it all out
These are the things I can do without
Come on, I'm talking to you
Come on

They gave you life
And in return you gave them hell
As cold as ice
I hope we live to tell the tale
I hope we live to tell the tale

Shout, shout
Let it all out
These are the things I can do without
Come on, I'm talking to you
Come on

And when you've taken down your guard
If I could change your mind
I'd really love to break your heart
I'd really love to break your heart

Shout, shout
Let it all out
These are the things I can do without
Come on, I'm talking to you
Come on

(They really-really ought to know.)
Shout, shout
Let it all out
(really-really ought to know.)
These are the things I can do without
(They really-really...)
Come on, I'm talking to you
Come on
(They really-really ought to know.)

Shout, shout
Let it all out
(I'd really love to break your heart.)
These are the things I can do without
(I'd really love to break your heart.)
Come on, I'm talking to you
So, come on

Shout, shout
Let it all out
These are the things I can do without
Come on, I'm talking to you
Come on

 

叫べ、叫べ
すべて吐き出せ
俺にはどうでもいいことだけど
お前に言って聞かせたい
やろうぜ

荒れた時代
白黒つけたがる奴らに
魂を売らなくていい
奴らは知るべきなんだ

奴らは一つのことしか頭にない
君たちは労働者としてしか見られてない
奴らにキスして決別しよう
大喜びする必要はない
はしゃいだりしなくていい

叫べ、叫べ
すべて吐き出せ
俺にはどうでもいいことだけど
お前に言って聞かせたい
やろうぜ

奴らは「お前を生んでやった」と言う
そのお返しに奴らを苦しめてやるんだ
氷のように冷たい地獄の苦しみを
みんなで生き延びられるといいね
みんなで生き延びられるといい

叫べ、叫べ
すべて吐き出せ
俺にはどうでもいいことだけど
お前に言って聞かせたい
やろうぜ

ガードが甘くなった時
君たちの心を変えられるといい
苦痛を伴うものだけどね
心を折ってでも変えたいんだ

叫べ、叫べ
すべて吐き出せ
俺にはどうでもいいことだけど
お前に言って聞かせたい
やろうぜ

シャウト

シャウト